映画『HELP 復讐島』レビュー|サム・ライミが作る、S級のB級
この映画をひと言で言うと
無人島に漂着した女性社員と横暴な上司が繰り広げるサバイバル攻防劇。サム・ライミ印の血しぶきとブラックユーモアが炸裂する、期待値を軽々と超えてくる娯楽スリラー。
作品の背景・前情報
監督: サム・ライミ
脚本: ダミアン・シャノン、マーク・スウィフト
出演: レイチェル・マクアダムス、ディラン・オブライエン、エディル・イスマイル、デニス・ヘイスバート、ゼイビア・サミュエル
音楽: ダニー・エルフマン
ジャンル: サバイバルスリラー/ブラックコメディ
その他注目点: 配給はディズニー傘下の20th Century Studios。原題は"Send Help"。
あらすじ: タイ出張中のプライベートジェットが空中分解し、ベテランのビジネスウーマン・リンダと彼女を露骨に見下す若い二代目社長のふたりだけが無人島に流れ着く。都会では徹底的に舐められていたリンダだが、島では抜群のサバイバルスキルを発揮し始める。生き残りをかけた攻防は、やがて予測不能な方向へと転がっていく。
サム・ライミといえば「死霊のはらわた」のカルトホラー作家として出発し、「スパイダーマン」三部作で一気に一般層へリーチした監督だ。「ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス」以来の長編となる本作、トレーラーからはB級の香りが漂っていた。口コミの評判もあって劇場へ向かったが、その期待は軽く上回られることになった。
作品のテーマについて
テーマとしてはシンプル。「弱いと思われていた人間が、実は強かった」という逆転劇の系譜に本作品は属すると思われる。
リンダは都会では舐められ続けていた。所謂、”空気が読めない人”。その風貌も性格も、周囲から低く見積もられる要素として機能し、観客に伝わってくる。ところが無人島という環境に置かれた瞬間、彼女はサバイバルスキルを次々と発揮し、社長を「手懐けよう」とし始める。顔もどこかイキイキしているように見える。このひっくり返し自体はジャンル映画として珍しいものではない。
ただし本作は、「弱者が強くなる物語」として綺麗に着地させることもしない。リンダに感情移入しようとすると、どこかでズレが生じる。トレーラーで強調されたほど上司はパワハラ的でもなく感じるが、かといってリンダを応援し続けられるかというと、それも微妙だ。誰にも素直に肩入れできないまま物語は進む。
表現について
猪を狩るシーンがある。CGの雑さ加減が絶妙で、劇場では笑いが起きていた。これはサム・ライミが確信犯的に仕込んだ温度感。血しぶき、吐瀉物、不快感を煽る描写が随所に差し込まれる。血やゲロが苦手な人には素直に注意を促したい。
ただその不快感が、本作の快楽と表裏一体になっている。「こういう雑さで笑わせながら、次の瞬間にゾッとさせる」という演出のリズムは、初期ライミ作品に親しんできた観客なら懐かしさすら覚えるはずだ。レイチェル・マクアダムスの怪演も特筆すべきで、「きみに読む物語」のあの人が? という驚きが、キャスティングとしての仕掛けになっている。
残った印象
無人島サバイバルの文脈で筆者が真っ先に思い浮かぶのは「キャスト・アウェイ」だったが、本作はその逆をいく。孤独の苦しさより、ふたりいることの狂気。どんでん返しもあり、展開は読めない。まさに「こういうのでいいんだよ」という印象だ。
リンダの変容が単純な「復讐の達成」で終わらない点に、ライミの作家性が滲む。島は彼女にとっての楽園であり、そこから出たくない理由が積み重なっていく。
まとめ
サム・ライミが作るB級は、S級のB級だ。ジャンル映画のルーティンを踏みながら、そこに収まりきらない過剰さを毎回ねじ込んでくる。
本作がカルト作品として後世に残るかどうかは、今後の評価次第だが、少なくとも劇場で体験する価値のある一本であることは間違いない。万人向けではないが、特定の観客には深く刺さる。その振れ幅がライミ映画の本質でもあるのではないか。
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