
【文字起こし】#006 「ブゴニア」について語る|ヨルゴス・ランティモス×アリ・アスター新作レビュー【CULATIVE RADIO 手前のカルチャー】
イントロ
は)乾杯!
上)乾杯!
は)はい、この番組は映画・音楽・アニメ・漫画などカルチャーをもっと知りたいけど、どこから触れればいいかわからないというような方へ向けて、カルチャーをもっと身近に感じるための入り口の手前までご案内していく番組です。はい、私がカルエイティブ編集室のはっしーこと、橋本拓哉です。
上)はい、カルチャーの手前代表の上水優輝です。よろしくお願いします。
は)よろしくお願いします。
ブゴニアを観てきた
は)で、ですよ。前回、ヨルゴス・ランティモスの『ブゴニア』のお話をしましたけども、まだ見られてないということで。
上)見てないよ。まだこの間の今日でしょうよ。
は)この間の今日で、私はですね、ちゃんと見てきまして。アリ・アスターとヨルゴス・ランティモスってところでかなり期待値高かったんですけど、良くも悪くも期待通りって感じですかね。期待値を大きくは超えては来ないけど、期待通りっていう熱量ですね。で、ちょっと今回ブゴニアの話で1本いっちゃうかもしれないんですけど、まさにヨルゴス・ランティモスの作品って毎回なんですけど、トータルアート、総合芸術で、総合的にクオリティが高いんですよね。映画としての完成度がすごい高くて、話面白いし映像いいし、音も結構こだわっとるしで、ヨルゴス印のいい映画でした。
上)へー。
は)そうですね。えーとですね、原作がこれあって、韓国映画『地球を守れ!』っていう2003年のやつなんですけど、そっちはもうちょっとコメディーらしいんですよね。結構コメディタッチの映画らしくて。ただブゴニアに関しては結構笑えないというか、笑えなくなってる。その展開は笑えるんだけど笑えないことになってるっていう、いつも通りだなって。
上)現代の社会に通じるものがあるってことですよね。
は)そうですね。作家性もあるとは思うし、時代の違いっていうのは結構大きいのかなって思いますね。今見たら笑えないなっていう感じ。ヨルゴスとアリ・アスターのテーマ性が重なっていい化学反応をしてるなっていう感じでしたね。
エマ・ストーンと坊主
は)結構見た方もちょっと聞かれてるかもしれないんで、ここ良かったよねっていう話を、ネタバレをなるべくしないようにしながら言っていきたいんですけど。
上)そんなことできるの?
は)まずね、主人公エマ・ストーンがめちゃくちゃかっこいいんですよ。
上)ビジュアル面ね。坊主でしょ。
は)あれ本当に坊主にしてたらしくて。で、あれ、なんで髪があの坊主にしてるかって言ったら、まあ誘拐されて、その宇宙船と交信するのに髪を使ってるんですよね。
上)おー。
は)交信できないように坊主にされるっていう話なんですけど。
上)そうなんだ。で、まあエマ・ストーンその役者魂ですよね。坊主にするってのって。
は)あの、ヨルゴス・ランティモスも一緒に坊主にしたらしいんですよ。私がやるからあんたもやりなさいよっていう(笑)
上)へー、全く意味不明ですね(笑)
は)なんかいいなって感じですよ。一緒に坊主にしようって。
VistaVisionという撮影手法
は)でこの映画、VistaVisionっていう撮影手法で撮られてるんですけど、VistaVisionっていうのが、通常フィルムで映画を撮ると昔ながらのそれが35ミリフィルムなんですよね。で頭の中でフィルムを想像してもらったらなんとなくわかると思うんですけど、縦に両サイドに穴が開いていて横の画角で並んでいる。VistaVisionはそのフィルムを横にすることによって、この横の画角が倍ぐらい大きくフィルムに映せるんですよね。
上)へー、そうなんだ。
は)だからアナログ感がありつつも、すごい綺麗に映せるっていうやつで、一時期流行った手法なんですけど、フィルムを倍使うんで、予算がないとできない映画の撮り方ではあるんですよ。それでその後デジタル撮影になっていって、もう廃れたけど、未だにアナログ派というか温かみのある映像で撮りたいという人は、35ミリフィルムで撮ったりVistaVisionで撮ったりみたいな感じなんですよ。
上)へー、そうなんだ。そんなこだわりがあるんだ。
は)これはそうそう。今回そのVistaVisionで撮ってるんですけど、いい効果を出してる。
上)だからそのさあ、フィルムで撮るってことは役者さんも大変ですよね。
は)そうね、ミスれない。
上)そうそうそうそう。何回も撮り直しとか、撮り直しすればするほどお金がかかっていくということですかね。
は)時間だけじゃないと思う。本当にフィルム代が上がっていくってことですよね。特にね、最後の方のシーンが本当に見たことないような絵がたっぷりあるんですよ。でその、まあ静止画に音楽が流れたりとかあるんですけど、もう絵画みたいな、構図計算し尽くされた絵画みたいな映像がいっぱい出てきて、いいなってなりましたね。
上)へー、完全にじゃあそこはそういう美しさも入れ込んできてるっていう。
は)本当に総合芸術、全ての部分でもう手を抜かないっていう感じですかね。
アメリカ国旗とイラク戦争のメタファー
は)うんあとはね、犯人は結構最初は丁寧に接するんですよね。あなた宇宙人ですよねみたいな感じで。ただこうだんだんヒートアップしていって、ある一線を超えるシーンがあるんですけど、その後外に出て、画面の中央、すごい俯瞰のショットなんですよね。遠くから家を映しているショットで、画面中央でアメリカの国旗がパタパタってはためくんですよね。でもそれがなんか、この間『ウォーフェア』見た後やけんかわからんけど、イラク戦争のメタファーに見えるんですよ。陰謀論というか、「あいつ武器持ってますよね」って、それを信じ込んでイラクに戦争を仕掛けたっていうのと、同じ構図なんですよ。
は)うわ皮肉。皮肉効いてるっていう。へー、うん、いいなって感じでしたね。
上)なるほどね。そうかこの人たちヨーロッパの人たちでしたよね。
は)そうですね。ギリシャと、アリ・アスターはどこだろう……アメリカかな。アリ・アスターはアメリカか。
ストーリーの展開とジャンル
は)まあ話、脚本としても原作見てないから、結構ずっと先が読めないというか、どうなるかわからんから、ずっと不安なんですよね。不安感がずっと漂っている。いわゆる映画詳しい人だったら知ってるんですけど、『ファニー・ゲーム』とか『隣の家の少女』って、いわゆるその監禁・暴力もの映画みたいなのがあるんですよ。一定のジャンルが、人を監禁して暴力を振るだけの映画。
上)そういうジャンルの映画があるの?恐ろしいね。
は)そういう感じかなって思いきや、まあ皮肉とか聞いてくるから全然違う展開になるし。結構ね、地球平面説とかレプティリアン、爬虫類人間が世界にはいて人間を侵略してるみたいな都市伝説みたいな話がもう二重三重に入ってきてて。
上)へー、そうなんだ。
は)うん、なんかすごいアリ・アスターっぽいしヨルゴスっぽいしっていう感じでしたね。これは結局この映画何が言いたかったんだろうって、いうのもあんまりはっきりしないんですよ。でブゴニアっていう言葉が何なのかの説明も特に劇中ではないんですけど。
上)えー、見たいね。
「ブゴニア」という言葉の意味
は)ちょっと調べましてブゴニアとはですね、古代地中海での信仰の話らしくて、牛が死んだ、牛の死骸から蜂が発生するっていう信仰のことらしいんですよね。昔の人は虫というか、ここでは蜂なんですけど、蜂がどこから来るかがわからなかったんですよ。いつどこで生まれて今ここにあるのかがわからなかった。牛の死骸を見てたらそこに虫が湧くわけですよね。だから虫は牛の死骸から発生するんだという考えになったらしいです。
上)なるほどね。
は)っていうことをブゴニアって言うらしくて。肉の腐敗とそこから生命が生まれるっていう循環の象徴みたいに語られてて。あと蜂って蜂の巣がすごい秩序だってるとか、女王がいて働き蜂がいてみたいな感じで、社会とか共同体とかの象徴でもあるんですよね。でなんかそういう話をブゴニアって言うんだっていうのをインプットしてみたら、なるほど、こういうことが言いたいのかっていうのがなんとなくわかってきます。
上)なるほどね。でもやっぱ原作があるから、やっぱりそれをすごい議論してこれブゴニアじゃねってなったってことだよね。
は)多分そうだと思いますね。そこをこう紐付けたのがすごいんじゃないかなと思いますね。
「証明のしようがない」という問い
は)なんかこう、目の前にいる人が宇宙人じゃないっていうことって、証明の仕様がないと思うんですよね。でそういう都市伝説とか何でもいいですけど、地球平面説とか、そもそもそういう証明の仕様なくないよねっていう話だと思うんですけど、現実世界は実はデジタルの世界、シミュレーションだみたいな都市伝説とか、宗教もですし神もですけど、全部証明の仕様がないんですよね。宗教の人とかに対して、神を信じることですごい世界の視野が狭まってる、広いところを見えてないって言い切っちゃうこと自体、すごい視野を狭めてるよねっていう話だと思うんですよ。じゃあ何を信じるのっていう話にもなると思うんですけど、なんかそんな感じの話なのかなと思いましたね。
上)なんか全然見てないからですけど、聞いた話だけ印象でしかないけど、やっぱり現代のこういう見方が正しいよねみたいなのがもうないじゃないですか。もともとないんだけど絶対的なものは。でも例えば科学にすごく偏っている時代を経てきて、その時やっぱり科学的にどうかってことだけで判断されちゃうみたいなのがあったけど、じゃあ科学は絶対なのかといったらそうじゃないと思うし、結局いろんな何を信念とするかというか、ベースのものの見方で、世界の見方で見え方って変わってくるから、蜂が牛から出てきてるという世界観に生きている人だっているかもしれないしみたいな構造ですよね。髪の毛で宇宙人と交信してるみたいなことを思っている人たちがいるっていうことをどう折り合いをつけているのか、難しいよねって話ですよね。
は)そういう話だと思いますね。
コロナ禍と同時代性
は)やっぱあれですかね同時代性というか、最近そういう話の映画多いと思うんですよ。やっぱテーマ的にそうしやすいとか。
は)あとこのブゴニア、脚本作られてるのは確かコロナ禍ぐらいなんですよね。
上)そうなんだ。
は)うん、多分最近上映されてるようなやつはほとんどがコロナ禍に脚本作られて、そこから撮影してとかだと思うんで、やっぱコロナっていう現象でみんないろいろこう考えてそれをテーマにするっていう、それが今映画になってるっていう時期なのかなって思いますね。
上)あの時確かに現実がパキッとね、いくつかの陣営に分かれて何が正解かみたいなことは、どんだけ対話しても分断しきって、分断しかないみたいな。反ワクの人たちとみたいな、例えばそういうのでも、大切だしそこは絶対分かり合えないみたいなことが起こってたっていうのとの、より複雑バージョンみたいに、どんどんなっていってますよね今。
は)なるほどね。面白いな、気になる映画だな。
ヨルゴス入門作としての位置づけ
は)これはぜひぜひぜひっていう感じですかね。
上)どうですかなんか、前回ヨルゴス・ランティモスの時に代表作がどうのこうのみたいな話がありましたけど、これはどうですか。代表作になりうるんですか。
は)結構なんだろう、とはいってもエンターテイメントしてるというか、エンタメ振り切ってるな感もあるんですよ。面白い、見やすいから、全然入門にすごいいいんじゃないかなって思いますね。ヨルゴス入門にブゴニアみたいな。
上)ヨルゴス入門にブゴニア。音が入門感ないんだよな、名前と作品名(笑)
は)そんな感じですかね。ブゴニア……
上)うーん、いいですね。なんか今日はちょっと手前じゃない感じのカルチャーだった気がしましたけど。
は)うん、まあこういった回もあります。
上)そうなんですね、分かりました。勉強になります。
は)というわけでありがとうございました。
上)ありがとうございました。
は)ありがとうございました。ブゴニアでした。
