
【映画レビュー】ペリリュー ー楽園のゲルニカー
原作漫画『ペリリュー 楽園のゲルニカ』を読んだ。
第二次世界大戦で「悲惨な戦い」として語られているが、一般的には認知度は低いと思われる「ペリリュー島の戦い」を、かわいらしい絵柄でありながら確かな史実性をもって描くその内容に強い衝撃を受けた。
あの濃密な内容を106分の映画としてどう再構成するのか。
そこに興味が湧いて映画化された劇場版アニメを鑑賞した。
原作の持つ凄惨さを、アニメ映画がどこまで受け止められるのか気になっていた。
作品情報
監督:久慈悟郎
脚本:西村ジュンジ、武田一義
原作:武田一義『ペリリュー 楽園のゲルニカ』(白泉社)
声の出演:板垣李光人、中村倫也、ほか
(C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー 楽園のゲルニカ」製作委員会
あらすじ
太平洋戦争末期、南洋の小島・ペリリュー島に送り込まれた田村二等兵。
持久戦の名のもと、逃げ場のない戦場で仲間とともに「生きること」に向き合う。
漫画家志望の一兵士の視点から、戦争の現実と人間の尊厳を描く。
映画としての印象
観終わった直後にまず感じたのは、
「原作の最も辛かった“戦争の最中”が意図的に削られ、始まりと終わりに焦点が寄っている」という構成だった。
そのため、原作で味わった胸が潰れそうな戦中のリアリティや地獄のようなシーンは薄まり、映画としては比較的観やすいと思う。
ただし、その“観やすさ”こそが、作品のもう一つの狙いー「まず知ってもらう」ための入り口ー として機能しているとも思った。
実際の戦闘描写をアニメで正面から扱う作品は多くないだろう。
「火垂るの墓」「この世界の片隅に」と並んで、戦争アニメ作品として確かな意味を持つ一本だと思う。
テーマと演出
この映画の核にあるのは、戦争批判そのものというより、
「ペリリュー島という場所で、確かに人が生きていた」という事実だと思う。
田村と吉敷の友情を軸に、極限状態の中でも日常や感情が存在していたことが描かれている。
映像面で特に印象に残ったのは、戦闘シーンの合間に挟まれる島の動物や植物のカットだった。
それらは驚くほど美しく、戦争という異物が自然の中に持ち込まれていることを静かに際立たせていた。
音楽や演出も過度に感情を煽らず、観客に「どう感じるか」を委ねる距離感が保たれている。
その抑制が、この映画を誠実な作品にしていると思う。
まとめ
原作を読んでいる立場としては、「なぜ玉砕ではなく徹底持久戦になったのか」という背景が、もう少し踏み込んで描かれていてほしかった。
特に原作でも象徴的だった 「サクラ・サクラ」 の場面が無いのは、正直惜しい。
あと10〜20分追加してでも入れて欲しかった。
一方で、106分という制約の中で、ペリリュー島の戦争を伝えるという目的は十分に果たしている。
可能であれば、ぜひこの映画をきっかけに原作も読んでほしい。
良かった点
- 原作を106分にまとめる編集が堅実
- 島の自然描写が戦争との対比として非常に効いている
- 実戦を描くアニメ映画として貴重
- 戦争映画が苦手な人でも入り口として観られる
惜しい点
- 持久戦に至る背景の説明が弱い
- 原作中盤の重さ・深さが削られている
- 「サクラ・サクラ」の場面はどうしても欲しかった









